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東京高等裁判所 昭和43年(う)142号 判決 1968年8月19日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

<前略>

論旨第一点の二について

一所論は、原判決において都条例第一条は「場所のいかんを問わず」と規定しているが、本条例の立法趣旨が公共の安寧を保持することにあることから考えると、集団示威運動が規制される場所は「公共の場所又はこれに準ずるような場所」に限定されると解したのは誤りであり、他の、この種の条例に明示されているごとく「屋外の公共場所」と解すべであると主張するが、前示の昭和三五年七月二〇日最高裁判決も「集団示威運動が『場所のいかんを問わず』として一般的に制限されているにしても、かような運動が公衆の利用と全く無関係な場所において行われることは運動の性質上想像できないところである」と述べて、「公衆の利用」と関係する場所であることを明らかにしているのみならず、本条例は他の公安条例のように、「道路、公園その他公衆の自由に通行することができる場所」(昭和二四年宮城県条例第四七号)、「街路、広場又は公園等公共の場所」(昭和二四年富山県条例第二四号)、「街路、広場又は公園」(昭和二四年石川県条例第三号)、「道路、公園若しくは広場」(昭和二四年愛知県条例第三〇号、同年三重県条例第二四号)、また「道路、公園その他屋外の公共の場所」(昭和三六年群馬県条例第三九号、同年岐阜県条例第二四号、同年静岡県条例第五七号、昭和三五年島根県条例第四六号)、「道路その他屋外の公共の場所」(昭和二九年京都市条例)、「道路、公園、広場その他屋外の公共の場所」(昭和三六年広島県条例第一三号)などの限定を加えずに、「場所のいかんを問わず」と定めて広般に集団示威運動の場所を規制しようと意図していること、警察権(警察法第三八条によれば、公安委員会は、警察の管理機関である)は、もつぱら公共の安全と秩序に関係のある生活及び場所を対象とし、公共の生活、場所に影響のある限度で発動されることを考慮するとき、本条例は、特に屋内の公共場所を排除して「屋外の公共場所」のみを対象としたものでないと解するのを相当とするのである。

二次に所論は、「場所のいかんを問わず」との規定を、屋内外を問わず「公共の場所又はこれに準ずるような場所」と解するとしても、本件の場所たる国電お茶の水駅本屋口改札口内のホールは、右規定の場所に該当しないというので、検討を加える。

本件の場所は、厳密な意味においては、道路、公園、広場、橋梁、河川などのごとく直接に(間接的にではなくて)一般公衆の共同使用に供せられるもの、即ち行政法上にいう「公共用公物」には、当らないであろう。

しかし公法上の法人たる日本国有鉄道(日本国有鉄道法第二条参照)において人的手段及び物的施設を整備して一般公衆に対して経済的役務を提供し、もつて公共の使用に供せられるものが、鉄道であり、これは行政法上のいわゆる「公共用営造物」ないし「公共営造物」であることを考えるとき、本件の駅改札口内のホールも一般公衆に対して経済的役務を提供する物的施設の一部であることが明らかである。

このように本件の場所は、公共の目的をもつて一般公衆に対し有料をもつて経済的役務を提供する施設の一部であり、しかも同じく施設であつても駅長室、出札係室、駅事務所、切符売場、精算所などのごとく、専ら国鉄職員の用に供せられる場所とは異り、一般乗客らが乗降ないし入場するために必ず通行すべき場所であることが明らかであるから、少くとも「公共の場所に準ずるような場所」と解するのを相当としよう。

三所論は原判決が「本件場所は、一面駅長の管理する屋内ではあるが、その管理権の作用は鉄道営業の範囲に限定されるもので、他面公衆の自由に利用しうる場所であることからみれば、警察権の介入しうる余地があり……」、また「駅舎に出入するには乗車券ないし入場券が必要ではあるが、それさえあれば誰でも自由に通行でき、しかもその乗車券ないし入場券は誰でも自由に購入することができ、現にほとんど道路と同じように公衆の利用に供されている、いわば公開された場所である」と説示したことを非難するが、右説示は、当裁判所が本件の場所を「公共の場所に準ずるような場所」と解した根拠としても、一応理解しうるのであり、正当な判断というべく、論旨は理由がない。

更に所論は、広島高等裁判所が広島県公安条例の定める「屋外の公共の場所」につき広島県庁の構内広場をこれに当らないと解釈した判決(昭和三九年(う)第一五二号、同四二年五月二九日言渡)を参考として掲げるけれども、同判決もいうごとく、この種の広場は県庁自体の用、即ち県庁職員及び県庁を利用する者の使用に供することを目的として設けられたものであり、行政法上にいう「公用営造物」に属するから、これを前示のごとく公共用営造物たる鉄道の施設の一部たる本件場所とは同一に論ずることはできないのであり、右の広島高裁判決が本件に適切でないことは、当然というべきである。

(その余の判決理由は省略する)(松本勝夫 石渡吉夫 藤野英一)

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